
第5節 修学旅行
「お前ら、ちゃんと全員揃ってるか?」
小見山先生はそう言うと、出席番号を読み上げ、最終確認をしていく。
今は空港の中にいる。
出国審査を終え、これからウィングシャトルに乗り、国際線のゲートに行くのだ。
もう少しで飛行機だ──
僕は初めて飛行機に乗る。先程から心臓が鳴り止まない程に興奮している。
「すげぇなー。あれがウィングシャトルか……」
クラスメイトの誰かが呟く。
確かにすごい。ウィングシャトルの外観は、赤色の車体でガラスの面積が大きく、その走る様はまるで近未来の空飛ぶ自動車のようだった。
僕達はシャトル内に乗り込み、国際線ゲートへ向かう。ゲートに着くと、飛行機の準備が整うまで待機となり、僕は自分の班員と話すことにした。
「飛行機、初めてだから楽しみだ。田中は乗ったことあるのか?」
僕は同じ班員の田中に問いかける。
「乗ったことはないな。それより俺は機内食が何出るか楽しみだ」
そう言って田中は腹を鳴らす。
田中は顔も身体も横に大きく、その力はクラスで一番強いのではないかと思うほどだった。そして完全にガキ大将の外見をしている。
「お前はそういうことしか考えてねぇのかよ」
田中とは真逆の外見をした、中井がツッコむ。
中井はいつも田中と一緒におり、田中がボケで中井がツッコミ担当らしく、見ているととても面白い。
最近は僕もその中に加わることが多く、よく三人で一緒に帰ったりする程には仲良くさせてもらっている。
しばらく三人でくだらないやり取りをしていると、飛行機の準備が整ったらしく、アナウンスでゲート前に来るように呼び出された。
「さぁ、行くぞ。お前ら!」
小見山先生が先頭に立ち、僕たちを引率する。
パスポートと航空券を見せ、ゲートをくぐると、いよいよ飛行機の中だ。
僕は航空券に書いてある席の番号を確認し、そこに座る。
なかなか良い座り心地だった。
隣は田中と中井が座っている。この二人が隣なら、良い空の旅ができそうだ。
これから始まる出発の時を待ちながら、目の前の画面に映る注意事項を見ていく。
注意事項が終わるとアナウンスが入り、今から離陸する旨が告げられた。
どきり、どきり、
鼓動が煩い程になっている。
これから僕は空に行くのだ。初めての空の旅……
飛行機が動き出し、やがて空に舞い上がる。
熱いものが身体の底から溢れてくる。
心が震えている。
僕は離陸の衝撃を感じながら、未知なる冒険への熱に身を焦がすほどに興奮していた。
──
入国審査を終え、荷物も無事手元に届いた僕達は現在バスに乗っている。
「お前ら、これからはバスで移動するからな!外は危険だから、勝手に降りるなよ」
小見山先生が大きな声で注意を促している。
「すげぇー!もうアメリカか……」
「食い物とか、やっぱり違うんだろうな……」
皆、興奮して聞いている者はいなかった。
バスが動き出す。バスは空港の敷地内を走りながら出口に向かっている。
しばらくしてからバスが出口を抜け、僕はふと窓の外を見た。
その瞬間を、きっと僕は永遠に覚えているのだろう。
目に飛び込んできたのは──
真っ青な広い空に、どこまでも広大な大地。
──すごい
僕は窓の外を食い入るように見た。
日本とはスケールが違う。なんというか……全てが大きく見えるのだ。
異国の衝撃が僕の胸を突き抜ける。
どくり、どくり、と胸が高鳴る。
その光景を目に焼き付ける。
やがてバスが公道に入り、ぽつぽつと店や通行人の姿が見え始める。
多種多様な人種に全てが英語表記の看板。
ここはアメリカなのだと、改めて認識した。
数時間バスは走り続け、日が沈み始めた頃。
バスはあるレストランに到着した。
「今日はここで夕食を摂る。席は班員で座るように!」
僕達はレストランに入り、班の順にテーブルにつく。
「どんな美味いもんがくるかな〜」
「果たしてお前の腹を満たせるのか……」
中井が田中の言葉に呆れながらも反応する。
僕も同意だ。田中はとにかく大食漢だった。そんな彼を満足させるには、かなりの量の食事が必要だろう。
そんなことを考えながら彼らのやり取りを眺めていると、料理が運ばれてきた。
その料理を見て驚愕する。
「やった!でけぇぞ!」
田中が嬉しそうに声を上げる。
そう、そのステーキはとても大きかった。おまけに太い骨まで付いている。
所謂、スペアリブという種類のステーキだ。
そのステーキと一緒に、山盛りのポテトも、ぶちまけられるようにして皿に乗っている。
流石アメリカだ。
これなら田中も満足するだろう。ちらりと視線を田中に向ける。
彼は嬉しそうにステーキとポテトを頬張っていた──
──
翌日、僕達はバスに乗り、ロサンゼルスにある姉妹校に向かった。
「もうすぐ校門が見えてくるぞ!お前ら、いつも通りに振る舞ったらダメだぞ!」
小見山先生が僕達に釘を刺す。
周りからは「それどういう意味だよ!」と野次が飛んでいる。
「そういう意味だよ!ボケ!」と先生が返す。
いつも通りのやり取りを眺めていると、見上げるほどに大きなアーチ状の校門が見えてきた。
──遂に来た!
校門をくぐり、学校の敷地内に入る。
すると、目に飛び込んできたのは、あまりにも日本と違う光景だった。
そこは学校のはずなのに、どこか”閉じられていない”空気があったのだ。
校舎はブラウンのレンガ造りで横に長い。だが不思議と威圧感はなく、まるで街の一部のようにそこに存在していた。
生徒達は制服を着ておらず、皆私服で思い思いの時間を過ごしていた。
ベンチに座って談笑する者、芝生に寝転んでいる者、サンドウィッチを食べながら歩いている者。誰もが、どこか自由だった。
バスを降りる。
すると、何人かの人物がこちらに来て出迎えてくれた。
“Welcome to our school!”
おそらく教師であろうその女性は僕達に向かってそう言った。
小見山先生も辿々しい英語を使って挨拶をしている。
僕はもう彼女が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
「お前ら!これからこの人達と一緒に校庭へ行くぞ!生徒達が班を作って待ってるみたいだから、お前達もグループを作っておけ!」
小見山先生は大声でそう叫ぶと、僕達を連れて校庭まで歩き出した。
綺麗だな──
校庭を見て初めに抱いた感想だった。
目の前には一面の芝生が広がっており、その緑はとても鮮やかに目に映る。
その一角に、カフェにあるようなテーブルと椅子がいくつか置かれており、そこに生徒達は座っていた。
女性が何かを喋る。
小見山先生はそれに頷いて、僕達に振り向いた。
「さっき決めたグループで彼らの班に入れ!彼らが校内を案内してくれるそうだ!」
とても難易度が高かった。
グループに入るといっても、英語で話しかけなければいけないのか──
僕達は入る班を見つけるために、テーブルとテーブルの間を行ったり来たりと彷徨う。
「中井、どの班がいいと思う?」
「え、俺ら英語喋れないしな……」
僕達のグループは誰も英語が喋れないので、どの班に行くか、なかなか決めることが出来なかった。
他はもう決まったところもあるみたいだ。
埒が開かないと思ったのか、女性の教師が僕達を近くの班へと案内してくれた。
「Hello, how are you?」
そのグループに行くと、肌の浅黒い男子生徒に英語で挨拶をされた。
僕達は顔を見合わせ、「は、ハロー。アイム、ファイン」とカタコトの英語で挨拶を返した。
彼は「I’m mike. nice to meet you」
と言っていた。
すると、もう一人のアジア系の男子生徒が僕達に声をかけた。
「ああ、固くならなくていいよ。一応、僕は日本語が話せるから。僕はカイン。よろしくね」
「よ、よろしく。俺はリック。リックでいいよ」
「じゃあリックって呼ばせてもらうね。よろしく」
僕達は握手を交わした。
そしてもう一人の、金髪の女子生徒も話しかけてきた。
「Nice to meet you」
「な、ナイストゥミートゥー……」
カタコトの英語で何とか話す。
彼女はどうやら日本語は話せないらしい。
彼女は笑顔で「I’m Sara」 と言った。
彼女とも握手を交わす。
田中と中井も、同じように三人と握手を交わしていた。
「じゃあ校舎の方へ行こうか。案内するよ」
カインが校舎の方へ歩きながら手招きする。
「まずは、ここが教室だよ。今は生物の授業をやっているみたいだ」
僕達がまず案内されたのは教室だった。
教室は日本の学校とそう変わらず、黒板の前に椅子と机が置いてあり、生徒達がそこに座っている。
一つ違うことがあれば、教師が前に立ち、その腕にイグアナを乗せていることくらいだ。
で……でかい。
僕はその手首から二の腕まであるサイズのイグアナを見て驚き、恐怖を抱いた。
だが教師はそんなことはお構いなしに、教室に入ってきた僕達の腕に「乗せてみる?」とイグアナを差し出してきた。
冷たい、ザラリとした感触が腕に乗る。
僕は痩せ我慢をしつつ、教師に「cute」と言った。
「Cute? 」
教師は素っ頓狂な声を上げ、大笑いをしていた。
その気さくさに僕は驚いた。先生という感じが全くなかったのだ。その仕草を見ていると、生徒のことも対等な存在として見ていることが分かる。
「次は、ゴルフ場に行こうかな」
バスケットコート、図書室、ダンス教室と、様々な部屋を見て回った後に彼はそう言った。
“ゴルフ場!?”
そんなところが学校に置いてあるのか……
彼は外に出て、僕達を手招きする。
しばらく歩くと、そこには見渡す限りの広大な緑があった。
──広い
その全長は数キロメートルはあるだろう。
これが全部学校の敷地だと言うのだろうか…
僕はあまりの驚きに唖然としていた。
「驚いたかい?生徒達は皆、ここでゴルフを楽しむんだ」
あまりのスケールの違いに僕は頷くことしか出来なかった。
「そしてこっちが駐車場だよ。この駐車場は主に生徒達が使ってるんだ」
そう言うと、カインはゴルフ場から少し離れた場所にある、車が何台も停まっている広場に案内してくれた。
僕はある疑問を聞いてみた。
「生徒も車を運転することが出来るの?」
「うん。アメリカでは一六才から免許を取ることができるからね。免許さえ持っていれば、車通学は自由なんだ」
僕はまたもや驚いていた。生徒が車で通学をするという概念は、僕の常識にはなかったからだ。
──アメリカって自由なんだな
僕は肩が軽くなったような、呼吸が楽になっていくような、そんな気がしていた。
「もうすぐお昼だね。そろそろ昼食にしようか」
昼食は校庭にあるカフェテーブルに座って摂ることになった。
僕達は六人掛けのテーブルに座り、向かい合って昼食のハンバーガーを食べる。その際、お互いの国のお土産を用意し合っていたので、それらを交換することになった。
僕は切手と扇子を用意していたので、それを渡す。
「わお!ありがとう、リック。宝物にするよ」
カインはそう言ってすぐに扇子を開き、あおいでいた。
喜んでくれたみたいでよかった。
どうやらプレゼント選びは成功だったようだ。
僕も貰った包みを開ける。
中はお菓子の詰め合わせが入っていた。
アメリカのお菓子だ。どんな味がするのだろうか。
「ありがとう、カイン」
僕はカインに礼を言う。
「Wow!!」
その時、横から大きな驚きの声が聞こえてきた。
見ると、マイケルの手の上には習字道具が置かれていた。
「Fantastic!!」
マイケルは興奮した様子で墨汁や筆を見ている。
習字道具を贈った中井は少し得意気になっていた。
ふと、田中はどうだろうと気になった僕は、ちらりと田中も見てみる。
「……」
サラは微妙な顔をして田中が贈った五円玉を見ていた。
視線を逸らす。
どうやら田中は小見山先生の言ったことをそのまま実践したらしい。
「君達は学校を卒業したら何をしたいんだ?」
ふいに、カインが進路について聞いてきた。
「特に決まってないな。たぶん大学に進学すると思う」
まだ将来のビジョンが何も見えていないので、とりあえず大学へ行く。特段珍しいことではないはずだ。
「そうなんだね……そこはアメリカとは少し違うところだ」
カインは何か考え込むように言う。
「どんな違いがあるのかな?」
僕は気になったのでカインに質問をしてみた。
カインは先程から頭の中を整理しているのか、自分の言葉を確認するようにゆっくりと話し出した。
「アメリカでは中学から授業を選択できるようになるんだ。だから皆自分の進路を考え始める。高校になると、選択授業がより充実して、自分の将来就きたい職業の科目を履修するんだよ」
話し終えると、カインはふぅ、と息を吐いた。
「僕もエンジニアになりたいんだ。だから、大学もそのために進むつもりさ」
……なるほど。もうこの時点でカイン達は明確な将来のビジョンを持っていて、そのために大学へ進学すると言うわけだ。
僕は今まで将来のことも考えず、漠然と生きてきた自分が恥ずかしくなった。それと同時に、同い年でもう将来を見据えているカイン達が急に眩しく見えてきた。
やりたいこと──か。
僕のやりたいこととは何だろうか。考えても出てこない。
“日本へ帰ったら探してみよう”
もうずいぶんと遠くなった自分の国を思い出しながら、そう心に決める。──
──
「今日はありがとう。とても楽しかったよ」
そう言って僕は手を差し出す。
「こちらこそ。またどこかで出会うことがあったら、その時はよろしく」
そう言ってカインも手を差し出した。
僕とカインは握手を交わし、僕はバスへと乗り込む。
「じゃあね〜」
バスの中から手を振る。
今日一日、とても充実していた。
あの学校の雰囲気……というのだろうか。
何に対しても開かれていて、何も強制されない、”自由”があそこにはあった。
そのおかげか、変に入っていた肩の力も抜け、呼吸が前より楽になった。もっと気楽に生きてもいいのだと、言われているような気がしたのだ。
そして、将来のこと……
今まで真剣に考えたことはなかったが、アメリカの学生と交流して、僕も考えてみようと思えた。
──ありがとう。この経験は絶対に無駄にはしない
遠くなっていく学校を見ながら、そんなことを考えていた。
しばらくバスに乗り、日が完全に沈んだ頃。
バスは「PIZZA HOUSE」と書かれたレストランに着いた。
バスから降りて店内に入った瞬間、鼻をつくような刺激臭が襲ってきた。
「……っ!」
これは……チーズの匂い!?
まさか、ピザもこの匂いで出てくるのか……
僕はチーズが苦手だ。
特にブルーチーズ等の匂いの強い物は絶対に食べられないのだ。
僕は恐々としながら席に着く。
席では田中がよだれを流す勢いで厨房の方を見ていた。
やがてピザが運ばれてくる。
瞬間、田中が物凄い勢いでピザを頬張り出した。
「うめぇ!これうまいぞ!」
田中は歓喜に沸きながらピザを頬張っていく。
そんなに美味しいのか?
僕も一口ピザを食べてみた。
「……!?」
あの刺激の強い匂いが鼻腔を通り抜ける。
き、気持ち悪い……
僕は何とか咀嚼し、それを飲み込む。
ダメだ。食べられない。
それになんだかお腹が痛くなってきた。トイレに行かなければ。
僕はそばにいたクラスメイトに「トイレに行くから先生に伝えてくれ」と伝言を頼み、トイレに行くのだった。
──
ガチャリとトイレのドアを閉める。
少し遅くなってしまった。早く戻らなければ……
広間の方へ戻った僕を待っていたのは、クラスメイト達が先程まで座っていたはずの、空いた椅子だけだった。
一瞬、我が目を疑った。
誰もいない……
「……」
状況を理解すると、僕の頭はパニックになった。
「「皆は一体どこへ行った?」
「伝言は伝えたはず」
「じゃあ、なぜいない?」
答えは出てこない……
僕は店を飛び出て走り出した。
駐車場を見る。いない。
また走り出す。
「……っ」
僕の中で焦燥感だけが募っていく。
走っているうちに、怪しい若者達がたむろしている場所に出る。
ここはアメリカだ。何が起こるか分からない。
僕は恐怖を振り払いながら走り続ける。
だが、はたと気付く。
戻って店員に聞いてみたらいいのでは──と。だが、僕は英語を話せない。
“ちゃんと通じるのか?”
不安が僕を襲う。
「……っ!」
そんなこと言ってられない──
湧き出てくる不安を裂く。
急いで来た道を戻る。
「はぁ、はあ、はあ、」
店に戻った頃には息が乱れていた。
肩で息をしている僕を見て、店員が驚いている。
僕は店員に、思いつく限りの単語を並べて、バスがどこに行ったのかを聞いてみる。
「う、ウェアー、ハイスクールバス? あ、アイム、ジャパニーズ スチューデント」
店員は最初、困惑した顔をしていたが、僕の制服を見て理解できたのか、すぐに場所を教えてくれた。
「Oh, If you’re taking the bus, it’s in the underground parking area」
その言葉はあまり理解できなかったが、パーキングエリアとアンダーグラウンドという単語で見当がついた僕は「Thank you」と礼を言い、また走り出す。
どうやら”地下の駐車場 “にいるみたいだ。
地下に向かって走っていくと、遂に見覚えのあるバスを見つけることができた。
「おい、どこ行ってたんだ?」
中から小見山先生が出てくる。
「お前、ちゃんと伝言残しとったみたいだけど、そいつが言うの忘れとったみたいだぞ」
「はぁ、はぁ……そ、そうなんですか」
「まぁ、今回はお前に落ち度はない。だから遅れたことは許してやる」
小見山先生はあっさりと集合に遅れたことを許してくれた。
「ありがとうございます!」
遅れた責任を不問にしてくれたことに思わず安堵の息が出る。
「さ、早くバスに乗れ」
先生に促されバスに乗り込むと、伝言を伝えた相手から謝罪をされた。
「ごめん……伝え忘れてた」
そのクラスメイトは申し訳なさそうに頭を下げている。
「うん。まぁ、大丈夫だよ」
無事に辿り着けたのだから責めることもない。
その謝罪を受け入れると、たまらず窓に身を預ける。とにかく疲れた。今はゆっくりしたい……
──
大陸が遠ざかっていく。
僕は飛行機の中からそれを見て感慨に耽っていた。
一週間はあっという間に過ぎ、もう帰宅する飛行機の中だ。
この修学旅行で得た物は沢山あった。
脳裏には呆れるほどの広い大地と、寛容な人々、そして前を向くカインの姿が浮かんでいる。
僕の進む道はどんな道になるのだろう……
それを考えたらドキドキするような、ワクワクするような、そんな不思議な感覚になった。
もうすぐ日本に着く──
着いたらまずは家に帰って寝よう。
そんなことを考えながら目を瞑る。
──
「ただいま」
あれから空港に到着し、そのまま解散となった。僕は疲れた足で電車を乗り継ぎ、家まで帰ってきた。
「おかえり。修学旅行はどうだった?」
家に着いた僕を母が出迎えてくれる。
中からいい匂いがする。
どうやら夕食中だったようだ。
「うん。めっちゃ楽しかったけど、疲れたよ」
そう言って僕は荷物を下ろす。
「後で修学旅行の話、聞かせてね」
母はよほどアメリカでのことが気になるのか、土産話に興味津々だ。
「うん。わかったよ」
僕はそれに頷き、手を洗いに行く。
今日はカレーか。お腹すいたなぁ……
そんなことを考えながら席に着き、夕食のカレーを食べながら母と話をする。
「向こうの学校で、カインって学生と仲良くなったんだ」
「あら、よかったね」
「そのカインがエンジニアを目指しててね……カインだけじゃなく、アメリカの学生はもう大体の学生が将来を見据えてるんだ」
「そうなの……立派ね」
母は少し目を見開いて驚いたように言う。
「俺は今まで将来のことなんか考えてなかったから、なんか……衝撃を受けたんだ」
「……」
母は少し間を置いて、僕に問うた。
「亮も、本気で考えてみようって思ったの?」
「うん。まだ将来のことは見えてこないけど、探してみようと思う」
「そう……頑張りなさい」
母は微笑んでいた。
それきり会話はなく、食事が終わった後、僕は部屋に戻った──
あとがき
第5節 修学旅行を読んでいただき、ありがとうございます。
この話では、修学旅行に行った僕がそこで出会った人々や価値観の違いに影響を受けて、自分の人生をちゃんと考え始めるまでのエピソードを描きました。
初めて海外へ行った感動は、今でも覚えているほど僕の中に刻み込まれていて、そこで得た物は、当時の僕の考えを根本から変えるほどの衝撃がありました。そして、”また海外へ行きたい” という強い想いも、この時芽生えたのです。
次の話も、読んでいただけると嬉しいです。



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