第4章 彼女の存在

病と共に
リック
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病に冒され、先が見通せないまま、現場に立ち続けるしかなかった僕に――

優しい言葉をかけながら寄り添ってくれていた存在がいた。

それが、当時まだ交際2年目の彼女(現在の妻)だった。

彼女は、僕の病気が発覚する前から、体調のことをずっと心配してくれていた。

「根性がないだけ、甘えているだけ」――職場でそう言われていた僕の異変を、彼女だけは信じて、受け止めてくれていた。

病気が発覚してからは、一緒に病院に通ってくれたり、

暑い日には涼しい場所で過ごすよう配慮してくれたり、

彼女は本当に献身的だった。

僕は感謝の気持ちでいっぱいだった。

「しばらく仕事を休んだほうがいいんじゃない?

私は、あなたの体調が心配なの」

彼女は何度もそう言ってくれていた。

けれど――僕は、その優しさを素直に受け取ることができなかった。

すでにバセドウ病の診断後に、少しの間だけ休ませてもらっていた。

それ以上休むとなると、今度こそ職場の信頼を失ってしまう気がしてならなかった。

造作大工という仕事は、歩合制だ。

仕事を休めばその分だけ収入は減り、現場での信頼を損ねれば、次の依頼は来ないかもしれない。

なにより――

僕は彼女との“結婚”を真剣に考えていた。

そんな中で、仕事を失うかもしれない選択は、どうしてもできなかった。

でも、それ以上に僕を苦しめていたのは――

「バセドウ病を患った自分と一緒になって、彼女は本当に幸せになれるのか?」

「この関係を続けていて、彼女を不幸にしてしまうんじゃないか?」

そんな疑問が、静かに、けれど確かに頭をもたげていた。

ある日、僕は彼女にこう尋ねた。

「なぜ、こんな病気を持った僕なんかと、まだ一緒にいてくれるの?」

彼女は少し間を置きながら、静かに語りはじめた。

「正直ね……バセドウ病って聞いたとき、すごく悩んだよ。

支えきれるかどうか、自信がなかった。

でも……それでも、あなたと一緒にいたいって思ったの」

彼女は、僕のために多くを抱え、言わずに耐えていてくれた。

その時、僕は改めて思い知ったのだ。

彼女の優しさと、どれほど支えられてきたかを。

僕は、ずっと心に引っかかっていた想いを、思い切って口にした。

「君は本当に、僕といて幸せになれるのかな……

病気の僕じゃ、君を幸せにできないんじゃないか……」

彼女は、少しだけ考えて、こう答えた。


「私はね、あなたと一緒にいると落ち着くの。

そして――ちゃんと、幸せだよ」

その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。

嬉しさと、安堵と、何かに許されたような気持ちに包まれた。

これまで、彼女とは何度も衝突をしてきた。

感情の起伏が激しくなった僕は、彼女にやり場のない怒りや悲しみをぶつけてしまうこともあった。

それでも、彼女は変わらず、僕のそばにいてくれた。

――この人と生きていきたい。

その想いは、これまで以上に強く、揺るぎないものになっていた。

そして、僕は彼女と共に歩む未来のために、

「この病と向き合いながら、生きていく覚悟」を固めたのだった。

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