第2章 病名が告げられた日(後編)

病と共に
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後編〜名を得た病、始まる試練〜

しかし、あの診断から2週間が経っても、症状は一向に改善されなかった。
薬は指示どおりに飲んでいた。
けれど、むしろ悪化している気さえした。

体重は56kgにまで落ち、少し歩いただけで目の前が白くなるようになった。
立っていられず、息を整えるために壁に手をつくこともあった。

再び病院に行ったが、医師はこう言った。

「肝機能は回復しています。ちょっと夏バテもあるかもしれませんが、体調が悪い時は誰にでもありますから」

……それだけだった。

その後も仕事に出続けたが、職場では徐々に冷たい視線を感じるようになった。
「熱中症くらい、皆なってる」
「他の人は普通にやってる」

そう言われると、まるで“怠けている”と暗に責められているように感じた。

医師の言葉がある以上、反論もできなかった。
悔しかった。
何より、心細かった。

3度目の診察を終えたとき、僕の中で“このままではいけない”という気持ちが芽生えた。
別の病院に行くべきだ――と。

少し古びた、こぢんまりとした病院があった。
口コミも少なく、若者の姿も見えず、不安だった。
「また、前と同じことを言われるんじゃないか」
そんな気持ちでいっぱいだった。

呼ばれて診察室に入ったとき、最初に感じた印象は、
「この医者、少し厳しそうだな」だった。
だが、症状を伝えると、その医者はこう言った。

「それは辛かったね。普通の検査じゃわからないこともあるから、もっと詳しく調べよう」

あっさりと、だが確かに、僕の状態を受け止めてくれた。
そして、しっかり目を見て、親身に話を聞いてくれた。

そのとき、最初に感じた印象は、すっかり覆っていた。

数日後、仕事中に1本の電話が鳴った。
病院からだった。
「結果が出たので、すぐに来てほしい」と言われた。

現場を途中で抜け、急いで病院へ向かった。

診察室に通された僕に、医師は静かにこう告げた。

「――甲状腺機能亢進症、いわゆるバセドウ病です」

初めて聞く病名だった。
僕は怪訝な表情をしていたのか、医師が簡単に説明をしてくれた。

その説明を聞いたとき、胸にじんわりと安堵が広がった。
ようやく、すべての“謎”に名前がついた。
見えない敵と戦っていた不安から、少しだけ解放されたような気がした。

職場の視線、誰にも伝えられなかった不調、
「根性が足りない」と思われているんじゃないかという恐怖。
それらすべてに、「これは病気だった」と言えるようになった。

その夜、彼女に電話で伝えた。
彼女は少し間を置いてから、
「ちゃんと分かって、よかったね」
と、優しく言ってくれた。

その声に、少しだけ涙が出そうになった。

次回予告

――病名がついたからって、
何もかもが治るわけじゃなかった。

目覚めれば、鉛の身体。
動けば、悲鳴を上げる心臓。

「いつまで……このままなんだろう」

焦りが、恐れに変わり、
恐れが、静かな諦めへと姿を変える。

それでも――
僕は今日も、現場に立ち続ける。

次回――第3章
『それでも現場に立つ日々』

限界なんて、知らなければ進めたのに。

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