〜発症から始まりの予兆まで〜

病と共に 第0章
それが明確な“病”として発覚したのは、
僕が身体の異変に気づいてから、数ヶ月が経った頃のことだった。
病の名前は、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)。
僕の場合、体重減少・倦怠感・筋肉分解・精神的高揚といった症状が顕著に現れた。
体重は気づけば15kgほど落ち、
何もしていなくても――まるで“常にマラソンをしている”ような疲労感に襲われていた。
僕は今、造作大工として現場で働いている。
肉体労働であるこの仕事にとって、この症状は“致命的”だった。
第1章 発症後の日々
朝起きるとまず思うことは、
「身体が動かない。今日は仕事に行けるだろうか」――
その日の仕事を無事に乗り越えられるかという、深い懸念だった。
バセドウ病を発症してから、僕の身体はまるで“鉛”のように重く、
いくら睡眠をとっても体力が回復することはなかった。
身体はみるみる痩せ細り、
職場の親方や同僚たちも、心配の声をかけてくるようになった。
けれど、その優しさすら、胸に突き刺さるようだった。
「悔しい」「申し訳ない」「情けない」
この三つの言葉が、僕の中で絶え間なく駆け巡っていた。
感情の起伏も激しくなっているようで、
時にはそれが涙となって、頬を伝うこともあった。
かつてなら難なくこなせていた作業が、今は始めた瞬間から身体に拒絶される。
道具を持つ手が震え、注意力が散漫になり、思うように動けない。
それでも僕は、どうにか現場に立ち続けようとしていた。
昼休憩、トイレに立つ。
いつものように階段を上る――
はずだった。
だが、その階段は、まるで登山道のように遠かった。
一段登るごとに、膝が震え、息が上がっていく。
戻るころには、横にならないと倒れてしまいそうだった。
「自分は本当に働けるのか?」
「この先、普通に生きていけるのか?」
そんな問いが、毎朝、そして毎晩、胸の奥でくすぶり続けていた――
次回予告
――異変は、静かに始まっていた。
口の中の痛み。
眠っても癒えない疲労。
鏡に映るのは、痩せ細っていく自分――
「こんなの、きっと気のせいだ」
何度もそう思い込んだ。
そう思い込みたかった。
でも、
“名前”が告げられたその日、
僕はやっと、自分の苦しみに形を与えることができた。
安堵と、
そして――始まり。
次回――第2章
『病名が告げられた日』
真実は、優しさでは終わらなかった。
コメント